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May 0852005

 旧姓で呼ばるる目覚め明易き

                           宮城雅子

語は「明易(あけやす)し」で夏、「短夜(みじかよ)」に分類。夜明けが早くなってきた。最近では、4時を少し過ぎると明るくなってくるので、早起きにはありがたい。そんなある朝、作者は「旧姓」で呼ばれて目が覚めた。夢の中で呼ばれたとも取れるが、私は現実に呼ばれたと取った。一泊のクラス会か何かで、この日は早立ちだったのだろう。そろそろ起きなければと呼びかけた人は、昔の友人だから、何のためらいもなく自然に旧姓で声をかけたのだ。が、呼びかけられたほうは、眠さも手伝って、一瞬意識が混乱したにちがいない。既に夜がしらじらと明け初めているなかで、だんだん覚醒してくると、そこにはかつての友人の微笑を浮かべた顔があった。時間の歯車が懐かしい少女時代に戻してくれたような気がして、まだ眠さは残っているものの、まったく不快ではない。結婚によって、姓が変わった女性ならではの世界だ。したがって、多くの男には体験できないわけだが、急に旧姓で呼びかけられると、どんな気持ちがするものなのだろうか。男だと、それこそクラス会で、いきなり昔のあだ名で呼ばれたりすることがあるけれど、ちょっとあれに似ているのかもしれない。似てはいるのだろうが、しかしもっとインパクトは強そうだ。などと、あれこれ想像を膨らませてくれる一句だった。『薔薇園』(2004)所収。(清水哲男)




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